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海表面エクマン層

海表面付近では風応力によって運動量が大気から海洋に注入される. まず大気は 極表面付近の海洋に運動量を与え鉛直シアを生成する. その後鉛直渦粘性によっ て運動量が下層に運ばれ, その鉛直シアは小さくなる. このような海洋極表層付 近においては鉛直渦粘性項が卓越することが考えられる. そこで鉛直の空間スケー ルを $E_V \sim O(1)$ となるように取り直すことを考える. この時 (10), (11) 式は以下のようになる.

 \begin{displaymath}
- (1+\beta y)v = -\DP{p}{x} + \DP[2]{u}{\zeta}
\end{displaymath} (20)


 \begin{displaymath}
(1+\beta y)u = -\DP{p}{y} + \DP[2]{v}{\zeta}
\end{displaymath} (21)

$\zeta = \sqrt{2/E_V}z$ は新しく取り直した鉛直座標である. 流速ベクトル (u,v) を $(u,v) = (u_g,v_g) + (\tilde{u},\tilde{v})$ と地衡流成分(前者) と非地衡流成分(後者)とに分解し, (20), (21) 式に代入す る.

 \begin{displaymath}
- f\tilde{v} = \DP[2]{\tilde{u}}{\zeta}
\end{displaymath} (22)


 \begin{displaymath}
f\tilde{u} = \DP[2]{\tilde{v}}{\zeta}
\end{displaymath} (23)

ただし, ここで $(1+\beta y)\equiv f$ とした. $\tilde{w} \equiv \tilde{u}
+ \imath\tilde{v}$ を利用すると, (22), (23) 式は一式に まとまる.

 \begin{displaymath}
\DP[2]{\tilde{w}}{\zeta} = \imath f\tilde{w}
\end{displaymath} (24)

海表面を $\zeta=0$ とすると, いま $\zeta$ 軸は上向きに正としているので, $\zeta \rightarrow -\infty$ $\tilde{w} \rightarrow 0$ となる解を探せ ばよい. 海表面での境界条件は次のようにする.

\begin{displaymath}\DP{\tilde{w}}{\zeta} = \tau_x + \imath\tau_y
\end{displaymath}

ここで $\tau_x, \tau_y$ はそれぞれ無次元化された風応力の東西成分と南北成 分である. (24) を解くと,

 \begin{displaymath}
\begin{array}{l} \Ddsty{
\tilde{w}
= \sqrt{\frac{1}{f}}\...
...f}{2}\zeta-\frac{\pi}{4}\right)
\right\}\right] }
\end{array}\end{displaymath} (25)

ここで $\sqrt{2/f}$ を元の座標系で表すと $\sqrt{E_V/f}$ となり、これはエ クマン層の鉛直スケールを表す無次元数で, 有次元で表現すると, $\sqrt{2A_V/f}$ となる. $A_V \sim O(10^{-2} {\rm m^2/sec})$とすると $O(\sim 10 {\rm m})$ である. これよりエクマン層内における $\tilde{u},
\tilde{v}$ は次のようになる.

 \begin{displaymath}
u =
\sqrt{\frac{1}{f}}\exp\left(\sqrt{\frac{f}{2}}\zeta\r...
..._y\sin\left(\sqrt\frac{f}{2}\zeta-\frac{\pi}{4}\right)\right\}
\end{displaymath} (26)


 \begin{displaymath}
v =
\sqrt{\frac{1}{f}}\exp\left(\sqrt{\frac{f}{2}}\zeta\r...
..._y\cos\left(\sqrt\frac{f}{2}\zeta-\frac{\pi}{4}\right)\right\}
\end{displaymath} (27)


  
Figure: エクマン螺旋の概念図. $A_V = 10^{-2}{\rm m^2/sec}$, $f = 10^{-4}{\rm /sec}$, $(\tau _x, \tau _y) = (0, 0.1) {\rm N/m^2}$ の 場合. (ug, vg) は無視をした. 図の U 軸, V 軸の単位は ${\rm cm/sec}$ である.
\scalebox{.6}{\includegraphics*{sekmanspiral.ps}}

これを図示すると図 1 のようになる. 表面流速の方向は風応力の方 向右斜め 45(南半球では左斜め 45) になり, 時計回りに流速ベクトル が回転しているのがわかる (南半球では反時計回り). これをエクマン螺旋と呼 ぶ.

(26), (27) 式のうち非地衡流成分のみをエクマン層内で鉛 直に積分し, 層内における非地衡流成分の質量輸送量を求めると次のようになる.

 \begin{displaymath}
\int^0_{-\infty} \tilde{u}\,d\zeta
= \frac{\tau_y}{f}
\end{displaymath} (28)


 \begin{displaymath}
\int^0_{-\infty} \tilde{v}\,d\zeta
= - \frac{\tau_x}{f}
\end{displaymath} (29)

これを見ると明らかなように, 非地衡流成分の質量輸送の向きは風応力の向きに 対して 90右側 (南半球では左側) になる. この質量輸送をエクマン輸送と 呼ぶ. (28), (29) 式よりエクマン輸送の収斂を求めると次 のようになる.

 \begin{displaymath}
\DP{}{x}\left(\int^0_{-\infty} \tilde{u}\,d\zeta\right)
+ ...
...rac{\tau_y}{f}\right)
- \DP{}{y}\left(\frac{\tau_x}{f}\right)
\end{displaymath} (30)

質量保存の式 (9) を用いて (30) 式左辺から得られるエク マン層下端における鉛直流速を wE と定義する. つまり

 \begin{displaymath}
w_E = {\rm curl_z}\frac{\Dvect{\tau}}{f}
\end{displaymath} (31)

ここで ${\rm curl_z}$ は回転の鉛直成分を表す.


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Takashi Kagimoto
1998-09-03