Subsections

3 時間方向の離散化

1 運動方程式と圧力方程式

空間離散化された運動方程式空間離散化された x 方向運動方程式, 空間離散化された z 方向運動方程式と圧力方程式 空間離散化された圧力方程式を時間方向に離散化する. 音波に関連する項は短いタイムステップ 1#1 で離散化し, その他 の項は長いタイムステップ 4#4 で離散化する. 音波に関連する項の離 散化には HE-VI 法を採用し, 2#2 の式は前進差分, 3#3 の式は後退差分 (クランク・ニコルソン法)で離散化する. その他の項の離散化にはリープフロッ グ法を用いる. 離散化した式の計算はまず 2#2 の式から行う. 得られた 95#952#2 を用いて 96#96 を計算し, 97#97 を用いて 98#98 を計算する.

運動方程式の各項のうち, 音波に関係しない項を 99#99 として まとめると, 運動方程式と圧力方程式は以下のように書ける.

    100#100 (56)
    101#101 (57)
    102#102 (58)

ただし 6#6 の式には音波減衰項 103#103 を加えてある (Skamarock and Klemp, 1992). 音波に関連しない項 104#104 は,
    105#105 (59)
    106#106 (60)

であり, 時刻 107#107 で評価することにする. 但し, 中心差分でリープフロッグ法を用いるため, 数値粘性項 Diff を追加してある.

1 音波に関連する項の時間方向の離散化

1 水平方向の運動方程式の離散化

uwpi:uを時間方向に離散化すると以下のようになる.

108#108     (61)

2 鉛直方向の運動方程式と圧力方程式の離散化

HE-VI 法を用いるので, 98#9896#96 の式を連立して解く. 98#98 の式におい て音波減衰項は前進差分, 圧力項は後退差分で離散化する. 96#96 の式にお いて水平微分項はuwpi:u_sabunで求めた 109#109 を用いて離散化し, 鉛直微分項は後退差分で離散化する.

110#110     (62)


111#111      
112#112     (63)

ここでは簡単のため格子点位置を表す添字は省略した. uwpi:pi_sabun 式に uwpi:w_sabun を代入して 113#113 を消去する.
114#114 115#115 116#116  
  52#52 117#117  
    118#118  
119#119     (64)

uwpi:sabun 式右辺を空間方向に離散化し, 格子点位置を表す添字を付けて表すと以下のようになる (計算の詳細は appendix-a 参照).
    120#120  
    121#121  
    122#122  
    123#123  
    124#124  
    125#125  

但し平均場の量は鉛直方向にしか依存しないので 11#11 方向の添字のみ 付けてある.

3 境界条件

上下境界を固定壁とする場合, 境界条件は上部下部境界で,

    126#126 (65)
    127#127 (66)

である.

下部境界:

下部境界(128#128)について考える. この時 uwpi:w_sabun 式に 添字を付けて書き下すと,

129#129 52#52 130#130  
  131#131 132#132 (67)

となる. したがって uwpi:sabun_ik 式は以下のようになる.
    133#133  
  52#52 134#134  
    135#135  
    136#136 (68)

上部境界:

上部境界(137#137)について考える. この時 uwpi:w_sabun 式 を添字を付けて書き下すと,

138#138 52#52 139#139  
  131#131 140#140 (69)

となる. したがって uwpi:sabun_ik 式は以下のようになる.
    141#141  
    142#142  
  52#52 143#143  
    144#144  
    145#145 (70)

4 圧力方程式の時間積分方法

uwpi:sabun_ik, uwpi:sabun_kabu, uwpi:sabun_joubu 式を連立すると, 以下のような行列式の形式で書く ことができる.

146#146      
147#147     (71)

この連立方程式を解くことで 21#21 を求める. この連立方程式の係数は以下の ように書ける.
148#148 52#52 149#149  
    150#150  
151#151 52#52 152#152  
153#153 52#52 154#154  
155#155 52#52 156#156  
    157#157  
158#158 52#52 159#159  
    160#160  
161#161 52#52 162#162  
    150#150  
163#163 52#52 164#164  
    165#165  
166#166 52#52 167#167  
    168#168  

ただし,
169#169      


170#170 131#131 124#124  
    171#171  

である.

2 音波に関連しない項の時間方向の離散化

運動方程式の音波に関連しない項 uwpi:u, uwpi:w 式を 離散化する.

    172#172 (72)
    173#173 (73)

ここで, Adv は移流項, D は粘性拡散項, Buoy は浮力項, Diff は数値粘性項である. それぞれの項を書き下すと,
174#174 52#52 175#175 (74)
176#176 52#52 177#177 (75)

であり, 浮力項は,
178#178 52#52 179#179  
    180#180  
    181#181 (76)

であり, 粘性拡散項は,
182#182 52#52 183#183  
    184#184  
    185#185 (77)
186#186 52#52 187#187  
    188#188  
    189#189 (78)

である. 数値粘性項は,
190#190 52#52 191#191 (79)
192#192 52#52 193#193 (80)

である. 194#194 は乱流エネルギーの時間発展方程式から計算し(詳細は後述), 195#195 は以下のように定める.
196#196     (81)
197#197     (82)

ここで 198#198 は水平・鉛直方向の格子間隔を意味し, 199#199 はそれぞれ,
200#200     (83)

とする.

2 熱力学の式と混合比の保存式の離散化

熱の式と混合比の保存式の右辺をまとめて 201#201 で表し, 時間方向にリープフロッグ法を用いて離散化する.

202#202 52#52 203#203 (84)
204#204 52#52 205#205 (85)
206#206 52#52 207#207 (86)
208#208 52#52 209#209 (87)

ここで,
210#210 52#52 211#211  
    212#212 (88)
213#213 52#52 214#214  
    215#215 (89)
216#216 52#52 217#217  
    218#218 (90)
219#219 52#52 220#220  
    221#221 (91)

である. 移流を中心差分で安定して解くために, 数値粘性項 Diff を追加してあ る. また, 222#222 項は湿潤飽和調節法より決めるため, それらの項を含めない.

223#223, 224#224, 225#225, 226#226 をまとめて 5#5 で表し, それぞれの項を書き下す. 移流項は,

227#227 52#52 228#228 (92)

であり, 基本場の移流項は,
229#229     (93)

である. 粘性拡散項は CReSS と同様に 1.5 次のクロージャーを用いることで,
230#230 52#52 231#231  
    232#232 (94)

となり, 基本場の粘性拡散項は,
233#233 52#52 234#234 (95)

となる. 数値粘性項は,
235#235 52#52 236#236 (96)

である. 237#237 は乱流エネルギーの時間発展方程式から計算する(詳細は後述). 195#195 は nu 式を利用する.

凝縮加熱項 238#238

239#239 (97)

である.

散逸加熱項 240#240

241#241 (98)

と与える. ここで 242#242 である.

放射強制 243#243 は計算設定ごとに与える.

雲水から雨水への変換を表す 244#244, 245#245 は以下のようになる.

    246#246 (99)
    247#247 (100)

雨水の蒸発を表す 248#248 は以下のようになる.
    249#249 (101)

降水による雨水フラックスを表す 250#250 は以下のように書ける.
    251#251 (102)
    252#252 (103)

1 湿潤飽和調節法

Klemp and Wilhelmson (1983), CReSS ユーザーマニュアル(坪木と榊原, 2001) では, 水蒸気と雲水の間の変換を表す 253#253 は, Soong and Ogura (1973) において開発された 湿潤飽和調節法を用いる. この方法は 254#254 の断熱線と, 255#255 の 平衡条件(256#256 は化学ポテンシャル)の交わる温度・圧力・組成を 反復的に求める数値解法である. 以下ではそのやり方を解説する.

1 飽和蒸気圧を用いる場合

湿潤飽和調節法を用いる場合, まず始めに risan:time-div_theta - risan:time-div_qr 式から求まる量に 257#257 を添付し, 258#258, 259#259, 260#260, 261#261 とする. 水に対する過飽和混合比

262#262     (104)

263#263, もしくは雲粒混合比が 264#264 なら ば, 次式を用いて暫定的に 223#223, 224#224, 225#225 を求める.
265#265 52#52 266#266 (105)
267#267 52#52 268#268 (106)
269#269 52#52 270#270 (107)

ただし, 271#271 である. もしも 272#272 ならば, 暫定的に得られた値を 257#257 付き のものに置き換え, moistajst_theta1 - moistajst_qc1 式 の値が収束するまで繰り返し適用する. 普通, 高々数回繰り返せば収束し, 調整後の値が得られるそうである.

もしも 273#273 の場合には,

    274#274 (108)
    275#275 (109)
    276#276 (110)

とし, 繰り返しを中止する.

2 圧平衡定数を用いる場合

硫化アンモニウムの生成反応

277#277     (111)

のような, 2 種類の気体 1 モルづつから凝縮物質 1 モルが 生成されるような生成反応の場合の, 湿潤飽和調節法を考える.

硫化アンモニウムの生成反応の圧平衡定数は,

278#278     (112)

である. 圧平衡定数を用いることで, 任意の温度に対する アンモニアと硫化水素のモル比の積を求めることができる.

任意の温度 279#279 における NH280#280SH の生成量を 281#281 とすると, 圧平衡定数の式は以下のように書ける.

    282#282  
    283#283 (113)

解の公式を使うと, 生成量 X は以下となる.
    284#284  
    285#285 (114)

根号の符号は 286#286 の場合にとりうる 281#281 の値を 仮定することで決める. 286#286 の場合, 明らかに
287#287     (115)

である. ここで木星大気を想定し, 288#288 であることを仮定すると 289#289 である. そこで def_X_NH4SHの根号の符号は 286#286 のとき 289#289 となるよう, 負を選択する.
290#290     (116)

281#281 の満たすべき条件は,
291#291     (117)

である. 上記の条件を満たさない場合には 292#292 とする.

281#281 が NH4SH-condition 式の条件を満たすならば, 次式を用いて暫定的に 223#223, 224#224, 225#225 を求める.

    293#293 (118)
    294#294 (119)
    295#295 (120)
    296#296 (121)

ただし, 297#297 であり, 298#298 299#299 はそれぞれ, 生成量 281#281 に対応する NH300#300 と H301#301S の混合比である. 温位が収束するまで反復改良を行う.

3 乱流運動エネルギーの式

Klemp and Wilhelmson (1978) および CReSS (坪木と榊原篤志, 2001) と同様 に, 1.5 次のクロージャーを用いる. 乱流エネルギーの時間発展方程式 をリープフロッグ法を用いて時間方向に離散化すると, 以下のようになる.

302#302     (122)

ここで,
303#303 52#52 304#304  
    305#305 (123)

である. CReSS にならい, 移流項を 107#107 で, 移流項以外を 306#306 で評価した.

307#307 に含まれる各項は以下のように書き下すことができる.

308#308 52#52 309#309 (124)
310#310 52#52 311#311 (125)
312#312 52#52 313#313  
    314#314  
    315#315 (126)
316#316 52#52 317#317  
    318#318 (127)
319#319 52#52 320#320 (128)

ここで 321#321, 混合距離 322#322 とする. また 323#323 は以下で与えられる.
324#324 52#52 325#325 (129)
324#324 52#52 326#326 (130)

ただし,
327#327 52#52 328#328 (131)

である.

4 時間フィルター

リープフロッグ法を用いたことによって生じる計算モードの増幅を抑制するた め, Asselin (1972) の時間フィルターを長い時間刻みで 1 ステップ計算する 毎に(実際には短い時間刻みの計算を 329#329 ステップ計算する毎に)適用する.

たとえばuwpi:u_sabunを用いて 330#330 を計算する場合, 以下のように時間フィルターを適用する.

331#331 52#52 332#332  
    333#333  
334#334 52#52 335#335 (132)

ここで 336#336 はフィルターの係数であり, その値は 0.05 を用い る. uwpi:w_sabun, uwpi:pi_sabunの計算に対しても同様 に時間フィルターを適用する.

5 スポンジ層

境界面付近での波の反射を抑えるために, 基礎方程式の付加的な項を付け加える.

337#337     (133)

ただし, 5#5 は任意の予報変数であり, 338#338 は客観解析値等の既知の 値である. この項は1 つ前のタイムステップ 306#306 で計算され, 小さいタイムステップで扱われる予報変数に対しても, 移流項や数値粘性項と同様に 339#339 の大きなタイムステップ間の値とし て評価される。具体的には,
    340#340 (134)
    341#341 (135)
    342#342 (136)
    343#343 (137)

とする. 但し 344#344 はエクスナー関数の基本場である.

345#345 はそれぞれ水平方向には各境界面に向かって, 鉛直 方向には上境界面に向かって小さくなる減衰係数である. これらの減衰係数は, 水平方向には吸収層の厚みを 346#346 とし, 7#7 の範囲を 347#347 とすれば,

    348#348  
    349#349  
    350#350 (138)

であり, 鉛直方向には吸収層の厚さを 351#351 とし, 11#11 の範囲を 352#352 とすれば,
    353#353  
    354#354 (139)

である. ここで, 355#355 はそれぞれ水平・鉛直方向の減衰定数 である. 355#355 は時間の逆数の次元を持ち, それらの逆数 356#356 は e-folding time と呼ばれる. e-folding time は通常 100 - 300 s に設定する. また吸収層の厚み 357#357 はそれぞれ, 水平方向には数格子分, 鉛直方向には上面から1/3 程度設定すれば良い.

Yamashita Tatsuya 2012-09-11