水惑星設定における軸対称な風成循環の数値実験 2: 密度非一様

目次

1 概要

水惑星設定における軸対称な風成循環の数値実験 1」では, 海洋モデルの妥当性の確認と水惑星設定の海洋大循環の基本構造の理解のために, 密度一様を仮定して系を簡単化した. ここでは, これらの仮定を取り除き, 密度・塩分非一様な水惑星の軸対称風成循環の数値実験を行う. 本数値実験の全体的な目的は, 先行研究の水惑星実験[3]と同様な海面強制を与えたときに, 開発中の海洋モデルが[3]の計算結果の特徴を再現するかを確認することである. また, それらの数値実験において,

  • 中規模渦パラメタリゼーションの効果
  • 対流調節スキームの効果

について調べることにする. ねらいは, 中規模渦や対流による混合の表現として, より精巧な表現方法(GM スキーム[1]や対流スキーム[]) を使用したときに, 簡単な混合の表現方法(例えば水平ラプラシアンによる混合)の結果とどのような違いが生じるかを調べる.

2 水惑星設定における軸対称な風成循環の記述

3 実験設定

3.1 ケース間で共通な設定

  1. 計算領域
    • 全球的に広がる水深 \(H= 5.2\) km の海洋. 海底地形や陸は存在しない.
    • 軸対称(経度方向に一様)な循環を計算.
  2. モデルの記述
    • 海洋大循環モデルの支配方程式
      • 静力学ブジネスク方程式
        • 軸対称設定(経度方向の微分はゼロ)
    • 海水の状態方程式
      • 線形近似([4]の式(1.59))
      • 二次関数近似([4]の式(1.169))
      • 国際状態方程式[2]
    • 渦粘性, 渦拡散係数
      • 水平方向の渦粘性係数 \(A_{h}\) , 渦拡散係数 \(K_{h}\) の設定
        • \(A_{h}=1.0 \times 10^{3}\) [m2 s-1]
        • \(K_{h}\) は, GM スキームを用いる場合はゼロに, 用いない場合は \(A_h\) と同じにとる.
      • 鉛直方向の渦粘性係数 \(A_{v}\) , 渦拡散係数 \(K_{v}\) の設定
        • 海面流速が [3] と同程度になるように, \(A_{v}=1.0 \times 10^{-2}\) [m2 s-1] にとる.
        • [3] と同じように, \(K_v=3 \times 10^{-5}\) [m2 s-1]
  3. DONE 境界条件
    • 海面
      • 運動学的条件: 剛体表面近似を課す(境界を横切るフラックスはゼロ)

        \[ w = 0 \;\;\;\;\;\; {\rm at} \; z=0. \]

      • 力学的条件: 水惑星実験 [3] の準平衡状態の地表風速から計算された, 海面応力の東西平均場を課す

      \[ \rho_0 A_v \dfrac{\partial u}{\partial z} = \tau_{zx}, \;\;\; \rho_0 A_v \dfrac{\partial v}{\partial z} = 0 \;\;\;\;\;\; {\rm at} \; z=0. \]

    表1: 海面応力(τzx) の南北分布[ N/m2 ].
    windStressLon_thumb.png
    • 熱的条件: 水惑星実験 [3] の準平衡状態から得られる温位・塩分の海面分布に緩和する. 緩和時間 \(\tau\) は 60 日.

      \[ \left(\dfrac{\partial\Theta}{\partial t}\right)_{\rm relax} = - \dfrac{1}{\tau} (\Theta - \Theta_{\rm relax}), \;\;\; \left(\dfrac{\partial S}{\partial t}\right)_{\rm relax} = - \dfrac{1}{\tau} (S - S_{\rm relax}) \;\;\;\;\;\; {\rm (一層目)} \]

    表2: 海面温度(Θrelax) [K], 海面塩分(Srelax) [psu] の南北分布.
    y_PTempRelax_thumb.png y_SaltRelax_thumb.png
    • 海底
      • 運動学的条件: 境界を横切るフラックスはゼロ

        \[ w = 0 \;\;\;\;\;\; {\rm at} \; z=-H. \]

      • 力学的条件: 滑り無し条件

        \[ u = 0, \;\;\; v = 0 \;\;\;\;\;\; {\rm at} \; z=-H. \]

      • 熱的条件: 断熱条件(境界を横切るフラックスはゼロ)

        \[ K_v \dfrac{\partial \Theta}{\partial z} = 0, \;\;\; K_v \dfrac{\partial S}{\partial z} = 0 \;\;\;\;\;\; {\rm at} \; z=-H. \]

  4. 初期条件
    • 運動場: 静止状態
    • 温位・塩分場: 20 世紀の気候の数値実験の結果1を時間・水平平均したものを, 初期の鉛直分布として与える(水平一様).
      表3: 温位[K], 塩分[psu] の初期の鉛直分布(水平方向は一様) .
      z_PTempInit_thumb.png z_SaltInit_thumb.png

3.2 各実験設定

表4: EOS:海水の状態方程式, Kh:水平渦拡散性係数[m2 s-1], Kv:水平渦拡散性係数[m2 s-1], Pl: ルジャンドル陪関数の次数, L: 鉛直レベル数, dt:時間スッテプ[hour]
実験名 EOS Kh Kv 対流調節スキーム 等密度面混合スキーム GMスキーム 解像度 dt 備考
EOSL_HDIFF linear 1000 3×10-5 - - - Pl42L60 16  
EOSQ_HDIFF quad 1000 3×10-5 - - - Pl42L60 16  
EOSJM95_HDIFF JM95 1000 3×10-5 - - - Pl42L60 16  
EOSL_HDIFF_VDIFF100 linear 1000 3×10-3 - - - Pl42L60 16  
EOSL_HDIFF_CA linear 1000 3×10-5 \(\circ\) - - Pl42L60 16  
EOSQ_HDIFF_CA quad 1000 3×10-5 \(\circ\) - - Pl42L60 16  
EOSJM95_HDIFF_CA JM95 1000 3×10-5 \(\circ\) - - Pl42L60 16  
EOSL_IDIFF_CA_GM linear - 3×10-5 \(\circ\) \(\circ\) \(\circ\) Pl42L60 16  
EOSQ_IDIFF_CA_GM quad - 3×10-5 \(\circ\) \(\circ\) \(\circ\) Pl42L60 16  
EOSJM95_IDIFF_CA_GM JM95 - 3×10-5 \(\circ\) \(\circ\) \(\circ\) Pl42L60 16  
  • 実験シリーズの目的
    • 対流調節, 等密度面混合, GM スキームを用いない場合
      • 標準実験: EOSJM95_HDIFF
      • EOS 依存性: EOSL_HDIFF, EOSQ_HDIFF, EOSJM95_HDIFF の結果を比較する.
      • 鉛直渦拡散係数依存性: EOSL_HDIFF, EOSL_HDIFF_VDIFF100 の結果を比較する.
    • 対流調節スキームを用いる場合
      • 標準実験: EOSJM95_HDIFF_CA
      • EOS 依存性: EOSL_HDIFF_CA, EOSQ_HDIFF_CA, EOSJM95_HDIFF_CA の結果を比較する.
    • 対流調節, 等密度面混合, GM スキームを用いる場合
      • 標準実験: EOSJM95_IDIFF_CA_GM
      • EOS 依存性: EOSL_IDIFF_CA_GM, EOSQ_IDIFF_CA_GM, EOSJM95_IDIFF_CA_GM の結果を比較する.

4 計算結果

4.1 対流調節, 等密度面混合, GM スキームを用いない場合

4.2 対流調節スキームを用いる場合

4.3 対流調節, 等密度面混合, GM スキームを用いる場合

5 計算結果の解析

6 考察

7 まとめ

8 参考文献

References

[1] Peter R Gent and James C Mcwilliams. Isopycnal mixing in ocean circulation models. Journal of Physical Oceanography, 20(1):150-155, 1990. [ bib ]
[2] David R Jackett and Trevor J McDougall. Minimal adjustment of hydrographic profiles to achieve static stability. Journal of Atmospheric and Oceanic Technology, 12(2):381-389, 1995. [ bib ]
[3] John Marshall, David Ferreira, JM Campin, and Daniel Enderton. Mean climate and variability of the atmosphere and ocean on an aquaplanet. Journal of the Atmospheric Sciences, 64(12):4270-4286, 2007. [ bib ]
[4] Geoffrey K Vallis. Atmospheric and oceanic fluid dynamics: fundamentals and large-scale circulation. Cambridge University Press, 2006. [ bib ]

脚注:

1

http://data1.gfdl.noaa.gov/CM2.X/CM2.0/data/cm2.0_data.html から得られる, GFDL CM2.0 モデルによる 20 世紀の気候計算の出力データの中で, 数値実験「CM2Q-d2_1861-2000-AllForc_h1」の出力データを用いた.

著者: Yuta Kawai

Created: 2015-06-02 火 09:44

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