論文の構成
題目|Title
タイトルは重要である。タイトルは読者を自分の論文に惹き付ける、最初のチャンスである。検索されることを考慮して、適切なキーワードを埋め込む.
よいタイトルは次の5つの特徴をもつ
Informative (情報を提供する)
- 可能な限り具体的に論文のテーマを記す。ただし、不要な語は入れない。
Accurate (正確さ)
- 論文の内容を誇張してはならない。ただし、謙遜する必要もない
Clear (明解さ)
- 誤解されない、させない。読者にタイトルの意味について考えさせるべきではない。
Concise (簡潔さ)
- 短いタイトルは即座に認識される。タイトルの全ての語には、そこに有るべき理由があり、全ての語はタイトルのメッセージに貢献する必要がある。
Attention commanding (注意を惹き付ける)
- 平凡なタイトルよりも、刺激的・挑発的なタイトルのがよい。ただし、上記4つを満たした上で。
タイトルの組み立て方
- 論文の主要なテーマを1つか2つをあらわす、ドラフトタイトルを作る。
- 自分の論文のユニークさが伝わる「語」を加える。ただし、同分野の研究者に分かる表現で。
- もっとも重要な情報を、先頭か末尾にもってくる。—先頭と末尾は読者の目に止まる位置である。
- 上記の5つの特徴を備えているか検証する。
タイトルには避けるべき語
- 複数の意味をもつ語
- study, investigation など不要な語
- 広く使われていない語順 —the inversion of potential vorticity
- 略語
- 先頭の“On” —思い上がった表現だと捉える人が居る(らしい)
- 疑問文のタイトル —Nature, Science以外では避ける
著者|Authors
- 論文で記述される研究に必要不可欠な貢献をした人(々)
- 内容に責任を負う
- 筆頭著者|First Author
- たいていは、研究と執筆を主導した人
- 責任著者|Corresponding Author
- 論文投稿の責任を負う人。 内容に関する問い合わせ先
- 筆頭著者と同じ場合が多い
- 共著者|Co-authors
- その他の著者
要旨|Abstracts
- 論文の重要な内容を 100~300 words 程度でまとめたもの
- 研究背景・方法・結果・結論が記述されている
- 論文本体の閲覧が有料の場合も、要旨は無料で公開されている
はじめに|Introduction
よいイントロは以下の3つの論点を含んでいる。
- Contextualizing background information 背景情報
例)「...は重要な問題であって、多くの研究がなされてきた」
後述の「研究の歴史」を含む。 - Problem statement 問題提起 —読者の気を引くためのフック
例)「しかし、...についてはこれまで研究がなされてこなかった」 - Response to the problem 解決方法
例)「そこで本研究の目的は...である。そのために...を行う」
この3つの論点をどう段落構成に反映するかは、使えるスペースに大きく依存する。字数や枚数に厳しい制限がなく、スペースが十分ある場合は、1論点を1段落以上を当てる。一方、スペースが乏しい場合には、2つあるいは3つの論点を1段落に押し込むことが多い。
Literature synthesis|研究の歴史
いわゆるヒストリカルレビューのようなもの。たいていはIntroductionの一部または大部分になっている。 言うが易しで、実際に書こうとすると膨大な時間と労力を要する。
良い Literature synthesis とは音楽のコンピレーションアルバム(CDで、もともと別のアルバムに入っていた曲を、一定の意図に基づいて集めて作るアルバム)のようなもの。
それはただのベスト盤以上のものであり、
- 先行研究に関する評価
- 過去の行き詰まった研究の方向
- 出版されていない、会議の予稿
- まだ考えるべき問題
- 今後の研究が進むべき方向の道標
を含んでいる。
ただの事実の羅列は避けるべきであり、良い Literature synthesis を書くための指針(キーワード)は
範囲
- 引用する/しない の判断基準を明確にすること
組み立て
- その分野でなされたこと/なす必要のあることを区別する
- トピック・問題をより広い学問分野に位置づける
- その分野の歴史的経緯の中に研究を位置づける
- 専門用語の解説が含まれる
- 関連した変数や現象が解説されている
- 新たな眺望(ものの見方)が示されている
手法
- 主要な研究方法やテクニックと、それらの利点と欠点について述べられている
- その手法を調べるために必要な、関連するアイデアや理論
重要性
- 実際の応用的な重要性について合理的に述べる
- 学問的な重要性について合理的に述べる
書き方
- 論理的で明解な構成で述べる
データと手法|Data and Methods
Data and Methodsの節は完全でなくてはならない。追試可能なように過不足なく情報を提示(引用を含む)しなければならない。ただし、ExcelやMATLABなどを使用した解析ツールとして引用する必要はない。
この節のタイトルは、研究方法にふさわしいものを選択する。例えば「データと解析手法」「数値計算」「観測」など。Methodology は the study of methods の意味にとられかねないので Methodsを用いる方が無難。
書くべき内容は
- 観測なら
観測方法、観測場所、観測期間 - 室内実験なら
実験機材・方法 - 数値実験なら
数値モデルの説明(方程式系含む)、実験設定、出力データ、解析方法 - 既存のデータの解析なら
データの説明、解析方法 - 理論的研究なら
支配方程式系や数学的手法、近似方法
論文の中では、最も書きやすい節なので、この節から書き出してもよい。
結果|Results
「結果」は論文・レポートの最も主要な部分であり、「データと解析手法」の節で説明した方法で得られる事実と、それがどう「はじめに」で提起した問題に答えるかの論理を説明する。全体像や大きな像から始めるのが良い。
自分が行った解析の結果を全てを、載せる必要はない。
“the fool collects the facts; the wise man selects them”
話の流れに必要最低限のデータプロットを用意すればよい。
結果の記述は、単なる計算結果の羅列ではなく、読者の大多数が納得できる解釈や推論や意味付けという、論理の展開を含む。
提起した問題の解決に直接必要な記述は「結果」で行い, その「結果」を踏まえてさらに生ずる2次的な問題を「議論」で扱う。
図の意味を理解するのに必要な記述はあくまで「結果」の中で述べなくてはならない。
過去の研究について述べる場合は、手短に(1文程度)。
教科書などに説明されている一般的な事項も同様に1文で述べる。より長い記述が必要な場合には「はじめに」か「付録」に移動させる。
議論|Discussion
「議論」では、「結果」で得られた個別の問題についての情報が、より一般的な科学の世界でどういう価値を持つのかを説明する。つまり説明する内容は「個別から一般へ」であり、「はじめに」の「一般から個別へ」と逆である.
議論では次のようなことが述べられる。
- 結果の解釈・注意点
- 結果から示唆されること、推測できること、解釈
- 結果に対する(著者の主張とは)異なる推測や解釈
- 例外や外れ値に関して述べる
- 予備的な情報
- 論文の主な論点を補足する
- 関連した事柄を論じる
- 仮説を挙げたり、見込みについて述べる
- 本筋から離れた議論をする
-
先行研究・現実との対比
- 実験結果や理論と現実とのギャップについての議論
- 先行研究と本研究との違いについての議論
- 自分の研究の、理論的な意味するところ、実際的な応用について詳しく述べる。自分の研究の重要さは何か?
-
今後の課題
- 残された問題
- その論文では不足している部分