冠詞と名詞
参考文献
冠詞と名詞については、以下の文献を参考にしている。これら以外で参考にしたものはその都度、記述する。
- 例文詳解 技術英語の冠詞活用入門, 原田豊太郎, 日刊工業新聞社, 2000
- 表現のための実線ロイヤル英文法, 綿貫陽 マーク・ピーターセン, 旺文社, 2006
- 日本人の英語, マーク・ピーターセン, 岩波新書, 1988
- 続 日本人の英語, マーク・ピーターセン, 岩波新書, 1990
- 実践 日本人の英語, マーク・ピーターセン, 岩波新書, 2013
- 日本人が誤解する英語, マーク・ピーターセン, 光文社, 2010
- 英語で書く科学・技術論文, 谷口滋次 飯田孝道 田中敏宏 John D. Cox, 東京化学同人, 1995
- 理系研究者のためのアカデミックライティング, ヒラリー・グラスマン-ディール(著) 甲斐基文 小島正樹(訳), 東京図書, 2011
1. 名詞の分類
日本の学校教育で学ぶ文法では「普通・集合・固有・物質・抽象」の5つに分類するが、これは言葉の意味に基づく独自の分類であって、文法的な分類とは異なる。
また参考文献2では体系的分類として、名詞を「固有」と「共通」(いわゆる普通の名詞)で大きく分け、共通名詞を「可算/不可算」に分け、そのそれぞれを「具象/抽象」に分けている。さらに「可算-具象」名詞は「個体」「集合」と分けている。
冠詞の使い方という観点から有効な分類は、以下の通りである(参考文献1)。
- [C]: 可算名詞——必ず形や境界のあるもの。文脈によって以下のいずれかの意味をもつ。
- 不特定 (まだ特定されてないもの「未特定」を含む)
- 特定
- 一般的概念
- [U]: 不可算名詞——形や境界がないもの、概念。文脈によって意味の範囲が限定されていたり、いなかったりする。
- 非限定 (まだ限定されてないもの「未限定」を含む)
- 限定
- [U]/[C]: [U]にも[C]にもなる名詞
2. 冠詞の原則
冠詞(a/an, the, 無冠詞φ)は情報を受ける側が認識する(と予想される)意味によって以下のように使い分ける。
- 情報を受ける側にとって「不特定(未特定)」「非限定(未限定)」 ➡ a+[C単], φ+[C複], φ+[U]
このとき情報を送る側が「不特定」「非限定」のつもりか「特定」「限定」のつもりかは問わない。 - 情報を受ける側にとって「特定」「限定」 ➡ the+[C単], the+[C複], the+[U]
このとき情報を送る側にとっても当然「特定」「限定」である。 - 情報を受ける側にとって「一般的概念」「非限定」 ➡ a+[C単], φ+[C複], φ+[U] または the+[C単]
このとき情報を送る側にとっても当然「一般的概念」「非限定」である。
3. the がつく特定・限定
以下の場合には「特定」「限定」されているとされ、上記の原則 2.に従い the がつく。
- 既出のものを指す場合
- 図や表のなかのものを指す場合
- 既出の名詞や事柄と明確な関連があり、情報の受けてが容易に「特定」「限定」できる場合
- 前の方の文章の内容を指す場合
- 以下によって修飾されている場合
- 形容詞の最上級による修飾
- 特定・限定する意味をもつ形容詞による修飾
above, corresponding, desired, dominant, final, first, following, former, initial, innermost, latter, lower, main, next, only, opposite, optimum, original, outermost, preceding, principal, proper, remaining, residual, respective, resultant, resulting, same, stoichiometric, succeeding, theoretical, upper, usual, utmost - 関係代名詞節による修飾。ただし、修飾節の内容によって絶対的にあるいは文脈上「特定」「限定」される場合のみ
- 不定詞句による修飾。ただし、[U]の場合(ability, opportunity, potential, tendency など)に限る
- of-句(所有・所属), of-句(主格)、of-句(目的格)による修飾。ただし目的格の場合はtheが省略されることがある(後述)。
- for-句による修飾。ただし、ひとつに決まる場合
- 固有名詞による修飾。ただし、ひとつに決まる場合
【注意】- 惑星・衛星名は固有名詞である
- ○ the Venus atmosphere, the Venusian atmosphere, Venus’ atmosphere
- × Venus atmosphere, Venusian atmosphere, the Venus’ atmosphere
- 既出であることを示す修飾
mentioned earlier, discussed above, described above, previously mentioned など
- 名詞自体の意味で「特定」「限定」される場合(自己限定名詞)
back, balance (残り、残高), center, first, following, front, last, mass, opposite, original, other, point, remainder, rest, reverse, whole - 名詞のあとにより具体的な名詞を続けて特定する場合(同格表現)
例) the advisor John Smith - ただひとつしかない(と思われている)もの
4. 冠詞の省略
以下の場合、冠詞が省略されることがある。
冠詞の繰り返し
- 「a/the 形容詞A 名詞X and/or a/the 形容詞B 名詞X」 は以下の省略表現が可能。
- 「a/the 形容詞A and/or 形容詞B 名詞X(andなら複数形, 元々の形) 」
- 「a/the 形容詞A and/or a/the 形容詞B 名詞X」前者の方がよく使われる。ただし、誤解される恐れがある。形容詞A and 形容詞B が一体のものだと 思われたり、形容詞A が名詞だと思われたりすれうる。
- 「from a/the 形容詞A 名詞X to a/the 形容詞B 名詞X」は「from a/the 形容詞A to a/the 形容詞B 名詞X」 の省略表現が可能。
- 名詞を列挙する場合、冠詞は最初の名詞だけにつけることがある: an A, B, C, and D
- between A and B も後者の冠詞は省略できる。
- A and B でAとBがセット(一体)となったものは、A and B でまとめて名詞句として扱う: an A and B
また、1セットなら単数扱い。
強く特定する形容詞を伴う場合
- all, both のあとのtheは省略されることがある。
- Figure 2, Table I, Eq. (3), Section 4, point O のように記号(数字含む)により特定されているもの前の the は省略される。
- identical を伴うとき the は省略される。ただし、same には the が必ずつく。
目的格のof-句
目的格のof-句によって名詞が限定されている場合、本来 the がつくはずだが、名詞が抽象名詞あるいは動名詞のときは the が省略されることが多い。 addition, analysis, anticipation, calculation, characterization, comparison, computation, determination, development, explanation, extraction, generation, hydrolysis, introduction, milling, observation, oxidation, processing, removal, sintering, swelling, synthesis, understanding, use ただし、以下の基準に当てはまるときは the を省略しない。
- 重要な名詞、強調したい名詞にはtheをつける。
- 口調でtheを入れた方がよいと感じた場合にはtheをつける。
- 格式ばった表現のときはtheをつける。
- イディオムになっているものは、それに従う。
イディオムなど慣用による省略
- by virture of
- in consequence of
- in front of
- in view of
- on account of
- on (the) top of
- in (the) face of
- in (the) order of
- from A to A’: ex) from place to place, from site to site, from beginning to end, from to to bottom
- A of B of Cの真ん中の名詞Bの the は省略されることがある。
- (a) part of —— 部分を分離させることができたり、境界がはっきりしている場合は a をつける。
- of theoretical: theoretical の前の the は省略される。
- in future (イギリス英語), in the future (アメリカ英語)
- be in hospital (イギリス英語), be in the hospital (アメリカ英語)
慣習によって無冠詞化したもの
- 官職・身分などを表す名詞
- 建造物や場所を表す名詞
- by + 交通・通信手段を表す名詞
- 食事を表す名詞
- 新聞の見出しなど
記号リスト・図のキャプション・タイトルでは冠詞を省略する場合がある.
5. 不規則な冠詞の用法|同格表現
of-句(同格)
- 「物理量 of 数値」の場合、a+[C単]かφ+[C複]が原則だが、物理量がof-句以外にも修飾されていたり、その値が特定のもの(ある物質の沸点など)の場合には the が使われる。また、単に値を強調する場合にも the をつけることがある。
- 「the range of」theを使うのが一般的だが、a range of の見られる。
- concept, effect, idea, phenomenon, risk などは the — of と the を用いる。
that節(同格)
同格のthat節による修飾の場合、that節の内容は読み手にとって初出の事柄なので、かかる名詞に the は不適切なのだが、 名詞によっては the がつくことがおおいものもあり、不規則である。
- [U]の名詞の場合、必ずφ+[U]である。
confidence, confirmation, evidence, faith, fear, hope, optimism, proof, word - the がつく名詞
advantage, anomaly, argument, assertion, assumption, axiom, belief, chance, concept, conclusion, difficulty, disadvantage, discovery, effect, expectation, fact, finding, ground, hint, hypothesis, idea, lesson, likelihood, notion, observation, point, possibility, principle, probability, proof, proposal, reason, recognition, recommendation, requirement, result, sense, suggestion, supposition, suspicion, view
特に、factは常に、assumption, conclusion, finding, hypothesis, observation, possibility は9割以上 the がつく。 - aがつく/φ+[C複]の名詞
assumption, belief, conviction, hint, hope, indication, notice, possibility, probability, statement, suspicion
6. 冠詞と名詞に関する細かな注意
theの有無で意味/ニュアンスが変わる表現
初出の[C複]にthe——名詞が示すもの全体を表す
- The Japanese are an industrious people.
個が埋没した表現 (日本人というものは勤勉な国民である) - Japanese are an industrious people.
個の違いを認めた表現 (日本人は勤勉な国民である)
ただし、Japanese を指すものが文脈上読み手に分かっている場合(初出でない)は、the Japanese は特定の日本人を指す。
in case of と in the case of
- in case of (もし 〜 ならば;万一 〜 が生じたならば)
- in the case of ( 〜 に関しては; 〜 については)
in front of と in the front of
- in front of ( 〜 の前に; 〜 の前方に)
- in the front of ( 〜 の前部に)
(in) back of と in the back of
- (in) back of ( 〜 の背後に)
- in the back of ( 〜 の後部に)
冠詞相当語
次の語は冠詞に相当する語であり、同時に冠詞は使わない。
- 指示名詞: this, that, these, those
- 不定代名詞: some, any, no, every, each, another, either, neither
- 人称名詞の所有格: my, your, his, her, its, our, their
- 疑問代名詞: whose, which
- 数詞: one two, three, ... など (数詞の前に定冠詞をつけることはある. —the three pigs)
- 固有名詞の所有格: Jack’s, ... など (普通名詞の所有格には冠詞を付ける. —The man’s wife)
2語の複合名詞
前の名詞が後ろの名詞を修飾する形容詞的な役割をはたす。前の名詞は単数形で記す(常に複数形の名詞は除く)。
3語以上の名詞を並べた複合名詞は好ましくなく、 space-age technology のように形容詞的な役割をはたす語をハイフンでつなぐ方が望ましい。
名詞の単複の使い分け
- no, zero に続く名詞は複数形
- 1.01, 0.5など1以外の数に続く単位をあらわす名詞は複数形
- eachに続く名詞は単数形
- 主語が複数の場合、それぞれがいくつ(単数か複数か)を明確にするために、eachを使うべき。
- 以下の名詞は一般に単数形で使う
advice, agreement, assistance, behavior, character, dependence, emission, encouragement, equipment, evidence, help, information, knowledge, literature, nature, scattering
これらの名詞を複数の意味で使うときは aspects of 〜, pieces of 〜 の形にする。 - 複数形に見えるが単数扱いの名詞
cryogenics, cybernetics, dynamics, economics, electronics, kinetics, mathematics, physics, politics, statics - the following は単数・複数ともに使える。the followings とはしない。
The following is the full list.
The following are noteworthy.
注意すべき複数形の作り方
- 文字や記号の複数形は -’s または -s
- ピリオドのある略語の複数形は -’s. ピリオドがない場合は -s.
所有格の作り方
- 単数名詞には -’s.
- 複数名詞には -’. ただしsで終わらない複数名詞は -’s.
- sでおわる固有名詞には -’s, -’ どちらでも可。
- 2者あるいはそれ以上の共同所有物は最後に -’s: Smith and White’s office
- 2者あるいはそれ以上がそれぞれ所有している場合は、全てに-’sをつける: Smith’s and White’s wives
所有格と of + 名詞
意味上も文法上も同じだが、以下の傾向で選択される。
- 国名・地名, 時間・距離・重量・価格, 人間活動に関わる表現には -’s が好まれる
- -’s のほうが簡潔な場合は -’s
- A’s B だと B に重点が置かれ、B of A だと A に重点が置かれる(重要な情報である)
- 語数の多い方を後に置く
NASAの本によると、無生物名詞の所有格には -’s も of も使わず、名詞+名詞の2語複合名詞で表すのがよいらしい。