=== GFD オンラインセミナー 第 2 回 * 日時: 2020 年 11 月 9 日 (月) 10:00 - 11:30 * 話題提供者とタイトル: 伊藤耕介 (琉球大) 「4次元データ同化による解析インクリメントの構造はどう決まるのか?」 * 要旨: 近年4次元データ同化システムは,比較的容易に利用できる環境が整ってきた こともあり,気象学・海洋物理学だけでなく,地震学・惑星科学・材料工学など 様々な分野に広がりをみせている.しかし,4次元データ同化によって得られる 解析インクリメント,すなわち,第一推定値から解析値への更新が,どのような 数理的背景をもっているかについて,広く知れ渡っているとはいいがたい. 本講演では,摂動の時間発展の線形性やガウス性など,いくつかの簡単化のための 仮定を施した最良線形不偏推定量について,可観測行列の特異値分解を通じた 理解を試みる.可観測行列は,R^{-1/2} H M B^{1/2}として定義される行列であり, 変数の正規化,及び,同化ウィンドウの初期時刻におけるモデル空間の変数を 時間発展させて,観測空間と比較できるようにするという役割を担っている. 解析インクリメントを,可観測行列の右特異ベクトル方向の成分の重ね合わせに 分解すると「可観測行列の左特異ベクトルとイノベーションの空間構造が似ており, 特異値が1程度かそれよりも十分に大きい」場合に,対応する右特異ベクトルの 方向の成分が,解析インクリメントの構成に大きく寄与することとなる.これは, 各特異ベクトルの方向について,解析インクリメントからイノベーションが説明 できそうであり,ノイズよりもシグナルが強いと判断されるならば修正がかかる, ということを表している.線形不安定に対応するモードが解析インクリメントの 成分として反映されやすいことや局所化を施さないアンサンブルベースの背景誤差 共分散行列を用いる場合に取り出せるモードの数がせいぜいアンサンブルメンバー 数ー1になることなど,解の形から分かることについても説明する.4次元データ 同化システムが観測値・第一推定値・誤差共分散・観測行列・時間発展演算子を どのように料理して,解析インクリメントができあがるのか,ということを理解 するのは,原理的に解くことができない問題に無駄な時間を費やすことを避けるだけ でなく,見通しのよいデータ同化システムの開発や観測システムの設計にも役立つ ものと期待する. * 参考論文:伊藤・藤井,2020,ながれ