=== GFD オンラインセミナー 第 9 回 日時: 2022 年 2 月 18 日 (金) 10:30 - 12:00 話題提供者とタイトル 辻野 智紀 (気象研究所) 「台風の強度変化に影響する内部力学過程 -観測データに基づく多重壁雲台風の強度解析-」 要旨: 熱帯海洋上で発生する台風は, 発達とともに顕著な回転軸対称構造を獲得し, 中心には晴天域である眼, その外側半径 100 km 周辺では非常に強い風雨を伴う. 台風の強度 (最大風速) 変化は, 周辺の高い海水温や大きなスケールでの水平風の鉛直シアーのような外的要因と, 台風渦の内部力学, 熱力学過程に由来する内的要因によってもたらされる. 特に内的要因に伴う強度変化の際, 多角形の眼や, 眼を囲むリング状の積乱雲群である壁雲の同心多重形成 (多重壁雲) など, 特筆すべき構造が見られる. 近年は計算機の発達により, 台風渦だけでなく渦に埋め込まれた個々の積乱雲を直接表現する数値モデルシミュレーションが実現し, 数値実験に基づく台風強度変化への内的要因の寄与やその物理的な機構が明らかにされつつある. 一方, 台風が存在する海洋上では観測機器が少なく, 実際の観測データに基づく内的要因の研究は相対的に少ない. このような現状において, 2015 年に運用が開始された静止気象衛星ひまわり 8 号は, 2.5 分間隔で台風周辺を撮像するこれまでにない観測を実施している. 個々の雲を直接追跡できる高頻度な画像を用いて, 台風中心付近の流れ場を定量的に推定する手法が Tsukada & Horinouchi (2020) によって開発された. Tsujino et al. (2021) は彼らの手法を用いて, 2018 年の台風 Trami における強度とその時間変化を定量的に見積もった. さらに多重壁雲構造が出現した期間における非軸対称な内部力学過程 (内的要因) が, 台風の強度変化に与えた影響を角運動量座標での渦度方程式に基づき明らかにした. 発表では, 台風の基本的な構造のおさらい, 台風の強度変化に影響を与える内部力学過程, 中でも非軸対称過程のレビュー, そして Tsujino et al. (2021) の紹介を行う. 参考文献: Tsukada and Horinouchi, 2020, Geophysical Research Letters (https://doi.org/10.1029/2020GL087637) Tsujino, Horinouchi, Tsukada, Kuo, Yamada, and Tsuboki, 2021, Journal of Geophysical Research: Atmospheres (https://doi.org/10.1029/2020JD034434)