=== GFD オンラインセミナー 第 4 回 * 日時: 2021 年 2 月 1 日 (月) 15:00 - 16:30 * 話題提供者とタイトル: 大貫陽平 (九州大) 「Wigner 変換を用いた流体波動の局所分離解析」 * 要旨: 地球流体中に見られる微小振幅波の性質は, 線形化された基礎方程式に平面波解を代入して理解されることが多い. 方程式に含まれる微分作用素は波数や周波数におきかえられ, 微分方程式を代数方程式に写して簡便に解を求めることができる. 方程式を解く過程で固有値として分散関係が得られ, 固有ベクトルとして各従属変数の振幅・位相比(偏波関係) が導かれる. これはフーリエ変換による微分方程式の解法として知られ, 波数ごとに得られた結果を逆変換することで物理空間における任意の解を構成することができる. フーリエ変換はデータ分析手法としても有用であり, 空間内に存在する各波数成分を分離してそのエネルギー密度やフラックスの診断を可能にする. 以上の考察は, 非一様な媒質, すなわち変数係数方程式で記述される系では一般に成立しない. 非一様媒質中の波動に対する解析手法として広く知られるのはWKB近似であり, 係数の変動スケールに比べて小さなスケールの波列に対して近似的に分散関係や偏波関係を導く. しかしこの方法は, 数値解析に根ざした現代科学においては必ずしも有用ではない. WKB近似では局所的に単一の波数で特徴付けられる波列を想定して解を構成するが, 現実の大気や海洋中には無数の波数成分が存在し, さらにはロスビー波や慣性重力波といった異なる種別の波が共存している. 数値データからそうした各種波動成分を分離・解析するための一般的な方法はこれまで存在しなかった. そこで本研究では, 従来のフーリエ変換とWKB近似を組み合わせた新たな理論解析手法を導入する. この手法を用いることで, 非一様媒質中における各種波動成分の「局所的」な分離が可能となり, さらにはエネルギーフラックスといった重要な情報が抽出できるようになる. 一連の理論の基礎となるのが, 表題にある「Wigner 変換」である. 本セミナーではまずWigner変換の基本概念を導入したのち, その多彩な数学的性質と有用性, さらには理論解析・データ分析への具体的な利用方法を紹介する. * 参考文献: Onuki 2020, Journal of Fluid Mechanics, 883, A56.