Kelvin波


リモネンは有毒?

この実験を計画しているとき, リモネンという物質がどういうものかわからなかったので, 化学の先生に問い合わせてみた.
私:「リモネンって毒性があるとか, 危険な物質ではありませんか?」
化学の先生: 「いや, ミカンの皮から取れる油で, 香料として使うくらいですから心配はないでしょう」
私:「じゃあ, 学生実験でも安心ですね」
化学の先生:「ところで, どのくらいの量をお使いになるんですか?」
私:「バケツ一杯ぐらい」
化学の先生:「えっ....(絶句) 香料として数ミリリットル単位で売っているような 物質ですからねぇ. そんなにたくさん使ったとき何が起こるか 私ぁ知りませんよ」

良い香りにもほどがある.

化学の先生には安全性の御墨付はもらえなかったものの, まあ, そんなに危険な物質でもなさそうなので, 「バケツ一杯」くらい注文して容器に入れてみた. 確かにミカンの香りがする. いや, 香りなんてもんじゃない. 強烈な臭いで実験室はもちろん, フロア−全体にミカンの臭いが充満してしまった. 特に, 実験室は私の居室兼用なので, たまらない.

臭化メチレンでわざわざ比重を水より重くして, 下層の流体として使うのは, 「水で蓋をする」という重要な意味がある.

そんなもんは, その辺にある?

リモネンの旋光度 (光の偏光面が回る角度) の波長依存性は この実験で必要なもっとも基本的データである. しかし, この可視化法を提案した Hart and Kittelman の論文にも あまり詳しいデータは載っていない. そこで, 化学の先生にデータがないか聞いてみた. 答えは「まあ, そんなデータならどこかにありますよ. 私の手元にはありませんが, 薬学部の図書室に行って聞いてみなさい」

で, 私は早速, 薬学部の図書室に行って司書に聞いたところ, 良く分からないので薬学部の先生を紹介してくれた. そこで, その先生をたずねて行くと「そんなデータはどこかにあるはず ですが, 探すより測った方が早いんじゃないですか」ということで, 測定機を持っているという農学部の先生を紹介してくれた. 早速, 電話をかけてみると「測定機はあることはあるんですけど, 今故障していまして... 宇治の化学研究所にはちゃんと動いている機械が ありますから, そちらをたずねてみられたらどうでしょう」 だんだん核心に近づいて来たかな, と期待を膨らませつつ, 化学研究所に問い合わせたところ, 私がほしい「角度のデータ」をとるオプションは持っていない ということだった.

こうなったら少しぐらいお金を出しても仕方がない. 民間企業を当たってみることにした. まずは近くの島津製作所. ここには測定機械がなかった. でも, 「東レリサーチセンターなら測定機を持っているでしょう」 という心強い情報を得た. 今度こそとばかりに東レリサーチセンターに電話をかけたら, いきなり「サンプル数はどのくらいでしょう」ときた. 「やった−」とばかりに, 具体的な話を進めて, 金額の相談に入った頃, 「ちょっと待ってくださいよ. お客さんのほしいデータはなんでしたっけ」 結局, ここも化学研究所と同じで「角度」のデータを出すオプション 装置は持っていなかったのである.

これ以後, 私は「その辺にあるはず」という言葉は現物を見るまで いっさい信用しない.

灯台もと暗し

私がほしかったデータはどこにもなかったし, それを測る機械もなかった. しかし, 私はそんなに難しいデータが欲しいわけではない. 偏光面が回転する「角度」が欲しいだけだから, 原理的には2枚の偏光板と単色スペクトルが出せる光源があればよい. 「なんでこんな単純なこと測る機械がないんや」とブツブツつぶやいて いたら「あった!!」分光光度計という便利な機械が.... それも私の属する地学教室に. これは資料の透過率や反射率を波長の関数として測定するもので, そんなに特殊な装置でもない. 最初からこれを使えばよかったのだ.

なんで黄色いフィルタなん?

最初から Y2 フィルタを使おうと思っていたわけではない. どうもきれいに撮影できないので, 片っ端から手持ちのフィルタをつけてみたら, Y2 がもっともきれいだったのである.

後で理屈を考えてみると, 波長が短いほど旋光度が大きいので, 波長の短い青色の光が180度近く回ってしまうと波長の長い赤と 区別できなくなってしまい, 色が鮮明にでないらしい.

ただ, この実験での「色」の感じ方は, 肉眼, ビデオカメラ, フィルムそれぞれに異なり, 肉眼でみるのがもっともきれいに 見える. ビデオカメラの映像は肉眼とは色合いが異なるものの, 比較的鮮明に撮れる. 写真撮影がもっとも難しい.